紅茶をめぐる幸せな旅【1】

紅茶専門店『えいこく屋』   店主 荒川博之

150年を経てよみがえった幻の「セイロンコーヒー」

 紅茶に魅了され、世界の紅茶をご紹介して37年。私はこれまでスリランカ、インド、ネパール、ヨーロッパ各国など、世界の産地を訪ね、生産者の方々との交流を続けてきました。 各国独自の文化、そこで見つけた素晴らしい紅茶、人々との出会い…紅茶をめぐる、心がホッとあたたまるような「旅」へ、皆さまをご案内できればと思います。

 まず初回にご紹介するのはこの紅茶…ではなく「コーヒー」です。それも幻の「セイロンコーヒー」をご紹介します。スリランカはコーヒー大国だった!

 セイロンは、スリランカの旧国名。スリランカは“インド洋の真珠”とも呼ばれる、日本の九州よりひと回り大きい島国で、日本に輸入される紅茶の約6割はスリランカ産です。 年間30万トン以上の紅茶を生産するスリランカですが、実は、かつては世界有数のコーヒー生産国でした。 イギリスがスリランカを植民地化したのが1815年。 以来、温暖な気候、豊富な雨量、肥沃な土壌を利用して、ゴム、ココナッツなどを栽培する大規模な商業農園開発が行われました。中でも評価が高かったのがコーヒー。盛んに生産されましたが、1869年にサビ病が発生し、島内のコーヒーは全滅。しかしその2年前、商業農園の一部で試験的に紅茶の栽培がスタートしていました。 枯れたコーヒーは次々に引き抜かれ、お茶の木へと植え替えられていきます。これが、現在のセイロン紅茶の大規模生産の始まりです。つまり、スリランカの紅茶生産のきっかけには、高評価を得ていたコーヒーの存在があったわけです。

小粒で香り高い「セイロンコーヒー」 ごくごく小規模ながら、今もスリランカで地道にコーヒーを栽培し続ける生産者さんがいます。最近ではスリランカの有機栽培紅茶のパイオニアも、ウバのイガルナシア茶園の一部でアラビカ種コーヒーの有機栽培を開始。フェアトレード認証を受けてヨーロッパなどへの輸出を始めています。 150年前のコーヒー大国スリランカを偲ぶ、この“幻のコーヒー”。『えいこく屋』でも数量限定の輸入ではありますが、皆さんに楽しんでいただける用意が整いました。 やや小粒の生豆は、清々しい酸味を生かしたやや浅めの焙煎が、私は合うように思っています。「セイロンコーヒー」の芳しい香りに、ロマンを感じていただければと思います。

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